検索
乳房は主に、「乳腺」と呼ばれる腺組織と周囲の脂肪組織からできています。乳腺組織は15〜20の「腺葉」に分かれ、各腺葉はさらに多数の「小葉」に分かれます。各腺葉には「乳管」と呼ばれる細い管が1本ずつ出ていて乳頭部に達します。乳がんは、「乳管」や「小葉」の内側の細胞から発生します。がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっているものを「非浸潤がん」、乳管や小葉を越えて外に出ているものを「浸潤がん」と呼びます。このほかに、非浸潤がんが乳頭に達して湿疹様に広がる「パジェット病」があります。
もっとも多い症状は乳房のしこりです。また、しこりの真上や周辺の皮膚に陥凹ができることもあります。そのほか、乳頭から液状のものが出る乳頭異常分泌があります。分泌物が血性の場合、約1/3が乳がんであるといわれます。
ご自身でしこりを感じて来院される方に一番多いのが「乳腺症」、次が「線維腺腫」で、これらは良性疾患です。三番目が乳がんですが、乳がんのしこりは表面がごつごつして乳腺症や線維腺腫に比べて硬いのが特徴です。自己診断では分かりにくいものですから、しこり=乳がんと思い込まずに専門医に診てもらうことをおすすめします。
通常、乳がんに痛みはありません。乳がんの方で痛みがある場合は、併存する乳腺症によることがほとんどです。
元々陥没していたわけでなく、普通に出ていた乳頭が徐々に陥没してきた場合、乳がんの可能性があります。ほかにも、乳頭が曲がる、乳頭がただれる、乳頭から汁が出るなどの症状にも乳がんの疑いがあります。
妊娠していない状態で乳首から汁が出ることを乳頭異常分泌症といいます。乳頭異常分泌のうちの一部(血性分泌の場合)は乳がんの可能性があります。必ず専門医を受診してください。
「乳がん」「乳腺症」「線維腺腫」が乳腺の三大疾患といわれ、乳がん以外は良性の疾患です。いずれも乳房にしこりを感じるのが主な症状です。線維腺腫は若い女性に多く、乳がんはその逆で、30代以降に増えます。乳腺症は10代〜50代まで幅広い年齢層にみられます。三大疾患以外にも乳腺炎(急性・慢性)などがあります。いずれも乳房のしこりが第一の症状です。
乳がんの約95%は乳房のしこりで発見されます。そのため乳がん検診は乳房の視触診が中心ですが、2004年以降マンモグラフィー(X線撮影による検査)が普及しつつあります。マンモグラフィーによって、触診では見つからないような小さながんが発見されることがあり、早期発見のために推奨されています。
乳房の触診では、医師が両手の指の腹を使ってしこりを探します。しこり以外に、乳房の皮膚や乳頭の陥凹、乳頭の偏位、乳頭からの異常分泌がないかどうかも調べます。しこりは5mmから1cmくらいの大きさになると、自分でも注意深く触ればわかります。月に一度、自己触診を行うことをおすすめします。
月に一度(月経後1週間以内。閉経後の方は毎月一回を決めて)、自分の手で行いましょう。右の乳房は左の手指で、左の乳房は右の手指で、乳房をつかむのではなく、手指の腹を使って軽くなでるように行います。
乳房を装置にはさんでX線撮影を行うものです。触診では診断できない小さながんが見つかることがあります。特に40代以降の方は、マンモグラフィーによる検診で早期発見が可能になってきています。自治体の乳がん検診にも導入されることが多くなりました。マンモグラフィーは、X線撮影ですので、妊娠している人には適しません。また乳腺が密な若い人は、しこりを見つけるのが難しい場合があります。
装置に乳房をはさむ時に多少痛みを感じることがありますが、強い痛みではありません。マンモグラフィーは苦痛のない検査といえます。
触診で見つかったしこりががんであるかどうかを調べるため、乳腺の超音波検査、PET検査、MRI検査、CT検査などを行うことがあります。
乳がんの発生しやすい部位は、乳房の上外側(腋に近い部分)で、全体の半数にも及びます。次に、上内側、下外側、下内側、乳輪部の順となります。自己触診の参考にしてください。
乳がんのリスク要因として、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が高い、授乳歴がない、などがあげられます。また高身長、閉経後の肥満、など体格の要因も関係します。乳がんの発生・増殖には、性ホルモンであるエストロゲンが大きく関わっていて、体内のエストロゲンレベルが高いほど、乳がんのリスクが高くなります。また、一等親の乳がん家族歴、良性乳腺疾患の既往などもリスク要因とされています。
遺伝性の乳がんもあります(全体の約5%)。また遺伝でなくても家族の食生活やライフスタイルが似ているため、同じ家系に乳がんが多く発生することもあります。
アルコールの摂取はエストロゲンレベルを上げるため、乳がんのリスクを高めます。野菜、果物、大豆製品の摂取が乳がんを抑制する要因として注目されていますが十分な根拠はありません。
女性の乳がんの罹患率は、30代から増加し50歳前後でピーク、その後は徐々に減少します。
欧米人女性に比べれば少ないものの、日本人女性の罹患率・死亡率は年々増え続け、1年間に乳がんで死亡する女性の数は、この45年間で約5.5倍にも増えています。
女性の1/100から1/200の頻度で男性にも乳がんが発生します。女性と同じくしこりが感じられますが、一般的に知られていないため、発見が遅れる傾向があります。
しこりの大きさが2cm以下で、リンパ節や全身への転移がないものは早期乳がんと呼ばれ、予後が良好です。乳がんにも様々なケースがありますが、一般的に他の臓器のがんに比べ進行が緩やかであることや、適切な治療で根治可能であることなどから5年生存率、10年生存率とも良好です。